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最高裁判所第二小法廷 昭和51年(オ)166号 判決 1977年12月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人石川則の上告理由第一点について

訴外若山孫蔵が訴外信明寺所有の本件土地につき被上告人の亡父賜外近藤喜一との間に締結した本件土地賃貸借契約は、訴外寺にとつて無権代理行為というべきであるが、その後訴外寺の権利義務を承継した上告人信明寺が右契約を追認することによつて有効となつた旨の原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができる。右追認によつてもなお右契約を無効とすべき事由があることは、原審でなんら主張立証されていないところであり、右主張立証を経ない事由に基づく所論は、原判決を違法とする理由とはならない。所論引用の判例は、右のごとき追認のない場合に関するものであり、本件と事案を異にし適切でない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点、第三点について

原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件土地賃借人である被上告人が、その地上に所有する本件居宅及び本件店舗を、約定の賃借期間満了時に上告人らに対し贈与する旨の特約は、それ自体として賃借人である被上告人に不利なものであり、かつ、その不利益を補償するに足りる特段の事情のあることが上告人らによつて主張立証されたものといえないから、借地法一一条に該当し、これを無効とすべきである旨の原審の判断は、正当として是認することができないものではなく、その過程に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、上告理由第二点、第三点について裁判官吉田豊の意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

裁判官吉田豊の意見は、次のとおりである。

私は、上告理由第二点、第三点についてその論旨を採用することができないとする結論には反対でないが、その理由とするところは多数意見と異なる点がある。すなわち、借地契約におけるある契約条件が借地法一一条にいう借地権者に不利な場合にあたるかどうかは、その契約自体についてこれを判断すべきものであり、借地契約におけるその他の事情をも総合的に判断して借地権者に不利かどうかを決めるべきではないと解するのが相当である。したがつて、右にいわゆる総合的判断法によるべきものとした最高裁判所昭和二七年(オ)第二八号同三一年六月一九日第三小法廷判決・民集一〇巻六号六六五頁の見解は、変更されるべきものと考える。これを本件についてみると、本件土地の約定賃借期間満了時にその地上にある被上告人所有の本件居宅及び本件店舗を上告人らに贈与する旨の特約は、右建物贈与にともない本件土地賃借権をその目的喪失により右期間満了と同時に当然消滅させるという趣旨のものであつて、それ自体として借地法一一条にいう借地権者に不利な場合にあたることが明らかであるから、その他の事情を考慮することなく、右特約を無効とすべきである。かりに、右期間満了時に、賃貸人たる上告人信明寺に所論主張のような本件土地使用を必要とする事情が生じているとしても、右上告人には、借地法上、正当事由を理由に更新を拒絶して土地明渡を求める機会が与えられているのであるから、被上告人の更新をうける権利を完全に奪い去ることを定めた右特約を有効と解すべき合理的理由はない。要するに、本件の右建物贈与の特約は、それ自体借地法一一条にいう借地権者に不利なものとして無効と解すべきであり、論旨は、この点において失当であると考える。

(裁判長裁判官 本林譲 裁判官 大塚喜一郎 裁判官 吉田豊 裁判官 栗本一夫)

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